ラッパーの自伝オススメ5選

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般若「何者でもない」

般若/何者でもない

若い子にはフリースタイルダンジョンのラスボスでおなじみ、おっさんには妄走族の一番鬼としておなじみの般若の自伝。

今でこそフリースタイルのメンバーと仲良くやっている姿がテレビに映ったり、若手を褒めてたりする発言がピックアップされたりするけど、当時の般若はとにかく常に殺気立っていて、気に食わない奴がいようもんなら、それが先輩であろうと平気でDISしたり、馴れ合いを好まない「孤高」のイメージが強かった。

それに加えて、ソロアルバムは他のラッパーに加えて客演が極端に少ないのも特徴で、般若と他のラッパーの交友関係はフューチャリング作品やリリックなどから断片的に読み解くしかなかったし、あまり多くを語らない般若の魅力の1つでもあった。

本書はそんな般若の知られざる交友関係や、当時彼が何故あれほどまでに殺気立っていて周囲に噛みついていたのかを理解できてめちゃくちゃ面白い。

個人的に特に興味深かったのは、妄走族の1人ではなく「ソロアーティスト」として早くからシーンに影響力を持っていたものの、グループ内のしがらみからアーティスト1本で食べていけるほど稼げておらず、般若本人は(それも結構最近まで)「はやくアーティストとしてしっかりやらないと」と思っていた事。

愛憎入り混じった妄走族への想いを読んでいると、彼が何故初期の頃にあれだけ尖ったイメージがあったのか妙に納得できたし、逆に「実はただの純粋な人なんだな」とも思った。

妄走族に関してはかなりぶっちゃけて書いているし、同じ「般若」というグループで活動していたRUMIとグループを解散した理由についても触れている。

他にもUMBに出場した理由や、昭和レコード設立のきっかけ、SHINGO☆西成やZORNを迎え入れた理由、フリースタイルダンジョンに出演を決めた理由など、どの選択も「なるほど」と思うことばかり。

昔からのヘッズというか、俺と同じ20代後半以上の人にはめちゃくちゃ刺さる内容だと思う。

ちなみに、電子書籍版には特典があるから、そっちを買った方がお得です。

漢a.k.a.GAMI「ヒップホップ・ドリーム」

ヒップホップドリーム

もうさ、自伝でこんな声出して笑ったの初めて。

先に紹介した般若と同い年のラッパーでMSCの中心人物である漢の自伝。

般若同様、近年メディアの露出が増えてきて「あれ?こんなにおちゃめな人やったんや」と驚いた人物でもある(ブレス式ではちょいちょいキャラ出してたけど)。

もともと般若と同じ東京を拠点に活動していたMSCだったが、妄走族のメンバーが(結果的に)雷家族やZEEBRAなどと親交を深めていたのとは反対に、漢をはじめとしたMSCのグループは、いわゆる東京の正統なシーンとは別に、独自のアンダーグラウンド・コネクションを構築していった。

漢や般若がHIPHOPを本格的にやり始めた当時は「対東京」を意識した地方のラッパーが多くいたが、漢も東京でありながらマインド的には似たような物だったと思う。

本書は、同じ昭和53年生まれで、同世代で頭角を表したラッパー「般若」の自伝と対比しながら読むとより一層面白い。

般若がストイックにラップに打ち込む一方で、ストリート稼業で生計を立てながら、そのリリックを曲に落とし込んできた漢。

どちらもある意味リアルなラッパーなものの、般若の自伝では「どうやって有名になるか?」と色々試行錯誤したり、ラップをする上での葛藤が書かれているのに対して、漢の自伝ではストリート稼業での葛藤や、ラップそのものに関係ない話も多い(厳密に言うと、漢のライフスタイルはHIPHOPに直結してるから関係あるんやけど)。

ストリート稼業は漢とは切っても切り離せない部分で、本書では一応隠語を使ってるものの、「いや!そんなハッキリ書いて大丈夫なん!?」と思うところが多すぎる 笑。

LIBRAとの確執など、かなりシリアスな事にも触れているものの、全体的にユーモアが溢れていて読みやすい。

漢が「般若は当時、RUMIやDJ BAKUとグループを組んで活動していて、同世代のラッパーより頭1つ出ていた」みたいな評価をしているんやけど、当の般若は「曲が無いのに有名になって焦った」らしく、名をあげる為にマイクジャックを繰り返していて、般若本人と周囲の評価のズレが個人的に興味深かった。

だからこそ、般若の今があるんやろうし、漢は漢で同世代でそういうラッパーがいたからこそ今があると思う。

HIPHOPが好きな人なら、単純に漢の自伝を読んでいるだけで面白いけど、HIPHOPに興味がなく「漢って誰?」みたいなレベルの人でもかなり楽しめる内容になっていると思うし、実際めちゃくちゃ売れてるらしい。

例えば漢がストリートビジネスをはじめたきっかけのエピソードでは、アメリカに行った漢は、仲良くなった奴からお土産に観葉植物をもらう。漢曰く「せっかくお土産でもらった物だから捨てるに捨てれない」から、リスクを覚悟で持って帰ったそう 笑。

それで金になると気づいて、遠征を繰り返すようになったらしい 笑。

他にも遊びの延長で友達を殺しそうになったり、イラン人を牛乳瓶でフルスイングしたり、敵対するラッパーを襲撃したり、どれもありえない話に聞こえるものの、全部の話にちゃんとオチがついてる 笑。

きっとこの本読んだ人全員が、「ラッパー漢」ではなくて「漢」という人間そのものを好きになってしまう筈。

ANARCHY「痛みの作文」

痛みの作文

京都は向島のスーパースターANARCHYの自伝。

もうだいぶ前の話(2ndを出した頃くらい)やけど、向島にはANARCHYより年上の知り合いが何人かいて、よくANARCHYの話になった。

きっと普段からHIPHOPを聴かないであろう人で、「ANARCHY」という名前自体にはピンと来ない人でも「ケンタがラップ」やってるという事を多くの人が知ってたし、そもそも驚いたのは「ケンタ」の存在を向島の年上まで知ってる事と、ANARCHYとして活動している事を知ってる人もやっぱり「ケンタ」って呼ぶんやな、ってこと。

年下の子からは「ケンタ君よく公園に溜まってたけどめっちゃカッコ良かった」という尊敬しまくりの発言も聞いたし、年上の「ケンタにあんたの住んでるとこ9BLOCKって呼ばれてるで 笑」「あの子らの時代はそんなに荒れてなかったやろ 笑」みたいな、関西人らしい少しいじってる話まで。

とにかく共通して言えるのは、「めちゃくちゃ愛されてるな」ってこと。

ANARCHY本人が彼らと面識あるかどうかは別にして、みんな「ケンタ」という名前で、近い存在としてANARCHYを認識してて、まさにフッド・スターという感じやった。

ちょっと前置きが長くなったけど、本書はANARCHYがどんな環境で生まれ、生活し、ラッパーANARCHYになったのか?と言うことが書かれている。

だから他のラッパーとの交流とかは書いてないし、向島の中で育ったケンタがラッパーになるまでの話で、良くも悪くもまさに「自伝」といった内容。

最初の方で、ANARCHYより上の世代の人が「ANARCHYのいた時の向島はそんなに荒れてない」と言ってたいたということを書いたけど、それは向島という環境が特殊過ぎるだけで、普通の人たちからすれば十分に荒れているレベル。

どう考えても凄まじい家庭環境なのに、ANARCHY自身も「そんなん周りいっぱいおるし普通やん」っていうスタイルで幼少期を過ごしてることこそが、向島という地域の特殊性を表していると思う。

漢も自伝で言ってたけど、不良をウリにすると各地のイベントで試されるらしい。

その点で言えば、ギャングスタラッパーとして出てきたANARCHYは、暴走族の総長として実際に体を張ってたり、そのことが本に書けるというのは、ハッタリでも何でもなく、たしかな説得力がある。

もちろん、そういう表面的なことじゃなくて、壮絶な家庭環境で共に育った仲間がムショに出入りを繰り返したりする中で「自分だけでなく、向島自体の環境を変えたい」という想いがひしひしと伝わってくるし、ANARCHYがその気持ちを忘れなければ、街ひとつ変えれそうな気さえする。

実際ANARCHYは、今ではHIPHOPシーンのど真ん中にいるし、メジャー・インディーを問わず活躍している。

「So What?」で言及しているように、昔とのスタイルの変化で文句を言われる事も増えたみたいやけど、彼自身のHIPHOPに対する想いは一貫していると思うし、ANACHYが立ち上げたレーベル「1%」から1stアルバムをリリースしたWILY WNKAに対して「大阪をレペゼンするなら大阪で闘わんと、外で闘わなあかんやろ?」というアドバイスを送っている。

だから、東京で活動しようがメジャーで活動しようがANARCHYはずっとレペゼン向島なんやろう。

てか!いまだに色々タイミング逃してDANCHI NO YUME観れてない!!どこでDVD買えるんやー!!

ZEEBRA 「I LOVE HIPHOP」

I LOVE HIPHOP

日本のHIPHOPシーンを語る上で欠かせない存在であり、今なおキングとして君臨するHIPHOP界のレジェンドZEEBRA。

最近ではラッパーとしての活動よりも裏方的な仕事の方が圧倒的に多いので、若い子に軽視されている気がしないでもないけど、この人本当はすげーんだぞ!と。

たとえば般若や漢は、既に出来上がったシーンの中で「どうやって自分の名前を売ろうか?」と試行錯誤しているのに対して、ZEEBRAの時代は「そもそも日本語でラップできるのか」というところからはじまる。

一応ZEEBRAたちの前にも日本語でラップをする先駆者たちはいたものの、あくまでHIPHOPっぽい要素を取り入れているだけだったり、お笑いに走っていたりして、今の日本のHIPHOPとは似ても似つかないものだった。

それを試行錯誤しながら今の形にしたのが、キングギドラだったりブッダブランドだったり、雷だったりしたわけで。

そもそもZEEBRAの前提として「自分だけでなく、これだけ凄いHIPHOPを日本で根付かせたい」という、当時から個人ではなくシーン全体の事を考えながらキャリアを築いてきた人物だから、ZEEBRAの自伝 = 日本HIPHOPシーンについての本とも言える。

そのスタンスを理解した上で読むと、閉鎖的だったシーンの中で積極的にメディアに露出しようとしたり、キャッチーな作品を出したりしていたのか、なぜ公開処刑でDragon AshをDISったのかも、すんなりと納得が行くし、今のZEEBRAが裏方的な活動が多いのも納得ができる(個人的にはラッパーのZEEBRAが見たいけど!)。

というかさ、息子を1人で育てないといけない状況で音楽で飯食って行こうとするのもそうやし、ちゃんと結果を出しているところとか、やっぱりZEEBRAすげーな。

今でこそ世界を視野に入れて活動している若いラッパーは多いけど、ZEEBRAは当時から世界基準で考えてたくらいだし。

ラッパーとしてもベテランの割に新しいスタイルを貪欲に取り入れて挑戦的なのに・・・・それだけにもっとコンスタントに新作を発表して欲しい。

本人がどう思ってるかわからんけど、いまだに多くのリスナーが新作待ってんねん!と。

B.I.G JOE 「監獄ラッパー」

監獄ラッパー

ヘロインの密輸によりオーストラリアの刑務所で6年間も服役したラッパーB.I.G JOEの獄中体験記みたいな内容。

彼の何が凄いって、多くのギャングスタ・ラッパーは服役経験をもネタにして、「悪さ自慢」に捉えられかねないストレートな表現をするのに対して、B.I.G JOEのリリックは「COME CLEAN」に代表されるように詩的である。

異国の地で6年間もの服役生活・・・・普通の人なら絶望に打ちひしがれる状況だが、リリックに「最悪の場所でも何か学べる」という通り、刑務所生活で多くの事を学んだことが分かる。

文章から分かる彼の賢さ、たとえば「刑務所ではこういう危ない目にあった」みたいな事をひたすら面白おかしく書いてるわけではなく、どんな気づきがあったのか?それによってどうなったのか?ということや矯正施設に対する矛盾点など、普通に読んでて「なるほど!」となることが多かった。

あとは、不自由な状況の中で少しでも生活をよりよくしようと創意工夫を重ねるポジティブな姿勢。

B.I.G JOEの場合は刑務所という極端な例やけど、彼が獄中でこれだけできるんやから、普通に生きてる俺たちはもっと色々できる筈。

経験から語られる言葉は重い。

まぁしかし、服役したとこで「愛とは・・・」みたいな事ばっかり言うんじゃなくて今でもやっぱり多少ヤンチャさが残ってるのがラッパーB.I.G JOEの魅力でもある 笑。


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